静かな夜、ふと窓を開けて外を眺めると、どこか遠くに果てしない深淵が広がっている気がする。そんな錯覚を呼び起こす漫画がある。つくしあきひとが描く『メイドインアビス』だ。
「ねえ、あの底には何があるんだろう?」
リコやレグが問いかける声が聞こえてくるようで、読者の心をざわつかせる。
物語の舞台は「アビス」と呼ばれる、世界で唯一残された巨大な縦穴。どこまで続いているのか誰も知らず、その内部には奇妙な生物や未知の遺物が眠っている。まさに“人類最後の秘境”と呼ぶにふさわしい存在だ。リコはそのアビスに挑む「探窟家」を目指す少女であり、母の行方を追うために旅立つ。そこで出会ったのが、少年の姿をしたロボット・レグ。二人の出会いが、この壮大な冒険の幕を開ける。
作品の魅力は何よりも「世界観の奥行き」だ。アビスの層ごとに異なる環境や生態系が描かれ、現実には存在しないはずのものが、あたかもそこに生きているかのように緻密に構築されている。読んでいると、自分も一緒に深界を降りているような錯覚を覚えるのだ。
だが、『メイドインアビス』は単なる冒険譚にとどまらない。そこには「命の尊さ」と「喪失の痛み」が常に寄り添っている。リコたちの仲間であるナナチやファプタもまた、それぞれ重い過去を背負い、苦しみの中で必死に生きている。第十四巻では深界七層への挑戦の中で、仲間を失いかける悲劇的な展開も描かれる。読者はその場面で心を引き裂かれながらも、彼らがなおも前に進もうとする姿に強く惹かれていく。
この「残酷さ」と「美しさ」の対比こそが『メイドインアビス』の真骨頂だ。幻想的で美しい風景が広がる一方で、そこには必ず代償が伴う。深界に潜れば潜るほど、人間は「上昇負荷」という呪いに苛まれ、元の生活に戻ることは難しくなる。それでも探窟家たちは降り続ける。なぜなら、その先にある「真実」を知りたいからだ。リコの母が残した手紙もまた、彼女を底へと誘う灯火のひとつである。
アニメ化されたことで、その世界観はさらに鮮やかに広がった。背景美術の緻密さ、音楽の幻想的な響き、そしてキャラクターたちの感情を描き出す声優陣の熱演。映像表現を通して、原作の持つ「光と闇の共存」がより強烈に迫ってくる。特に劇場版では、観客が涙なしには見られない場面が続出し、SNSでも「心が抉られた」という声があふれた。
また、『メイドインアビス』の人気は物語だけにとどまらない。関連グッズやフィギュア、展示会も盛況で、アビスの世界を実際に体験できるような没入感をファンに与えている。深淵を模した展示空間に立つと、まるで自分が探窟家になった気分を味わえるのだ。
そしてありがたいことに、この壮大な冒険は無料で試し読みできるサイトもある。
eBookJapan https://ebookjapan.yahoo.co.jp
コミックシーモア https://www.cmoa.jp
ピッコマ https://piccoma.com
最初の数話を読むだけでも、その独特の空気に引き込まれるはずだ。ページをめくる手が止まらなくなり、気がつけば深界の底まで一緒に降りている自分に気づくだろう。
リコ、レグ、ナナチ、ファプタ――彼らの小さな背中はあまりにも無謀で、あまりにも強い。『メイドインアビス』は冒険の喜びと恐怖を同時に描きながら、「それでも人は未知へと歩み出す」という普遍的な真実を私たちに突きつける。
読み終えたとき、あなたもきっと思うはずだ。「この先に何があるのか、確かめたい」と。