『蜜のあわれ』──赤い金魚の恋が、言葉より先に心を溶かす

「おじさま」と呼ばれる老作家と、「あたい」と名乗る不思議な少女・赤子。ふたりは同じ部屋で暮らし、艶めいた会話を交わし、夜にはぴたりと寄り添って眠る。けれど、その関係は甘いだけじゃない。どこかズレていて、どこか危うい。なぜなら赤子は“普通の女”ではないからだ。人間には正体がわからないのに、野良猫には見抜かれてしまう――赤子は、ある時は女(ひと)、ある時は尾ひれをひらひらさせる真っ赤な金魚。現実と寓話の境目がほどけていく、この入り口の掴みが強い。

本作の面白さは、奇抜な設定を「ネタ」にせず、恋の切なさとして丁寧に運ぶところにある。老作家の時間はゆっくりで、赤子の感情は速い。触れたい、確かめたい、独り占めしたい――その熱に、相手の人生の重さが追いつかない瞬間がある。赤子の可愛らしさは武器でもあり、同時に孤独の裏返しでもある。だから観ていて笑えるのに、ふと胸が冷える。

そこへ現れるのが、老作家への愛を募らせてこの世に蘇った幽霊・ゆり子。生者の赤子、死者のゆり子、そして生き残ってしまった老作家。三者が向き合うことで、恋は“選択”ではなく“執着”の形を取り始める。老作家の友人・芥川龍之介や、金魚売りの男が静かに見守る視線も、物語に薄い緊張を足していく。何も起きないようで、確実に何かが崩れていく――その気配が怖い。

『蜜のあわれ』は、露骨な刺激で押すのではなく、言葉の温度と沈黙の重さで魅せる“大人の寓話”だ。金魚という存在が象徴するのは、掴めそうで掴めない愛、見ているのに見えない本音、そして「可愛い」という感情の残酷さ。誰かを愛することで、自分が何者かを決められてしまう。その痛みを、赤の色彩のようにじわじわ染み込ませてくる。

観るなら、途中で止めずに一気に浸るのが向いている。ABEMAの作品ページから本編へすぐ入れるので、まずは配信ページで視聴プラン表示を確認して、そのまま再生するだけでいい。余韻まで含めて一本なので、通知を切って、夜に観ると刺さり方が変わる。赤子の赤が、画面の外のあなたの感情まで照らすはずだ。

さらに本作が巧いのは、「赤子=金魚」という設定をファンタジーの飾りにせず、関係の不安定さそのものに結びつけている点だ。金魚は水の中では鮮やかでも、手のひらでは生きられない。愛されたいのに、愛され方によっては壊れてしまう。赤子の無邪気さと危うさが同居するのは、その宿命が最初から仕込まれているからだ。野良猫だけが正体に気づくのも、理屈ではなく“気配”で生を嗅ぎ分ける存在だからこそで、画面に漂う違和感を一段濃くする。

ゆり子の登場で物語はさらに歪む。生きている者の恋は生活に磨耗し、死者の恋は燃え尽きずに残る。老作家を中心に、赤子の“今”と、ゆり子の“執念”がぶつかることで、恋はロマンではなく責任として迫ってくる。芥川龍之介や金魚売りの男の視線も、観客の代わりに「これは美しいのか、それとも滑稽なのか」と問い続け、最後まで判断を簡単にさせない。

映像は派手に煽らず、言葉の間と、肌に触れる距離で温度を上げてくるタイプ。だからこそ、夜に部屋を少し暗くして観ると効く。登場人物の声色や息づかい、沈黙の長さがそのまま感情の起伏になるので、できればイヤホンで没入したい。観終えたあとに残るのは刺激ではなく、妙に切ない余韻だ。

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視聴はABEMAが一番手早い。作品ページを開いて配信表示(無料/プレミアム、期限の有無)を確認し、そのまま再生するだけでいい。気になるならマイリストに入れておけば、あとで一気に戻れる。言い切ると、『蜜のあわれ』は“説明”より“体感”の映画だ。赤い金魚の恋が、あなたの常識の境目を少しだけ溶かす。その瞬間を、オンラインで確かめてほしい。

もしあなたが「文学的で少し変わった恋愛映画」を探しているなら相性はいい。甘い恋愛のご褒美より、言葉にできない寂しさや、誰かに寄りかかる弱さまで描くからだ。三角関係というより、同じ男をめぐって“生”と“死”が張り合う構図に近い。だから結末は単純な勝敗にならない。観る前に深読みする必要はない。再生して、赤子の台詞の温度と、老作家の目線の揺れを追うだけで、物語は自然にあなたの中へ入ってくる。

そして本作は、台詞のきわどさ以上に「関係の呼び名」が刺さる。「おじさま」「あたい」という呼称が距離を近づける一方で、どこか現実から逃げる仮面にもなる。呼び名が甘いほど、現実の痛みが増す。そこに幽霊のゆり子が入り込み、過去の言葉まで現在に蘇らせる。言葉が人を縛り、言葉が人を救う。その矛盾を味わうための一本だ。恋に正解を求める人ほど、観終わったあとに立ち尽くすはず。だからこそ、軽く流さずに最後まで観てほしい。視聴後は、冒頭に戻って猫の視線をもう一度見ると、最初の違和感の意味が変わって見える。ぜひ一度。今夜、静かに浸ってください。

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